「lontano」はイタリア語で「遠くから」を意味すると同時に、クラシック音楽の世界では「遠くから聞こえているように演奏する、木霊のように」という指示をあらわす楽語としても用いられます。
「音楽が、卑近な『感情』や『情念』と無縁の、どこか遠くの美しい場所から聴こえてくるとよい、といつも思っていました」という一ノ瀬の言葉通り、作品全体を包み込むのは、あたかも黒い森の奥や深い海の底から鳴動してくるようにしめやかなアトモスフィア。それは、緻密なスコアリングに基づく高純度な器楽曲のストラクチャーの上でエレクトロニカのエッセンスが霧散する、一ノ瀬独自の世界観が見事にパッケージングされていることを物語っています。
パブリック空間でのインスタレーションやCM音楽の作曲などを通じ、感覚的イメージの昇華作業を積み重ねて蒸留された、一ノ瀬響という音楽家の「いま」を切り取るインティメイトなアルバムであると同時に、ジャンルや小手先のテクニック論だけではカバーできない、オープンで誠実な音楽のあり方を指し示す、金字塔と呼ぶべき作品がここに完成しました。
「おびえる小動物のように、感覚の「閾」(いき)をめいっぱいあげて、感じとるもの。『音』と『音楽』の境界をどこまでも拡大してみつめていくこと。
『lontano』は、遠くからのかすかな音を聴きとろう、という態度の表明でもあります。
決して音が小さいということを意味するのではないと思っています。そして、遠くとは、この場合、空間的なものだけでなく、時間的な長い距離をもあらわすのかもしれません」(一ノ瀬響)。
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